「サトウくんから電話よ〜」高校の同級生のサトウはクラスは一度も一緒にならなかったが卒業してからも、スケートの誘いの電話をくれる。白いカローラレビンで夜の渋谷児童館、原宿、新宿花園公園、たまに湘南に繰り出す。 「スケボーって金がかからなくていいよな。だって遊ぶとしたら居酒屋、ゲーセン…何やっても金がかかるんだよ。スケボーは公園で滑って自販機でコーラ飲んで満足だもんな。」毎日をそうやって過ごしている自分も妙に納得する。さすが商学部だ。 サトウはこだわりの奴だ。高校の時も僕がショップオリジナルのローズモデルだったというのにアメリカ製のプロモデルを買ったのだ。 それもストーミーでだ。「だって、あそこの社長さ、コーヒー出してくれて、なんか全然客が来てなさそうで、同情しちゃったんだよ。」 微妙なUFOが描いてあるグラフィックの聞いたことがないMike Folmer という人のプロモデルトラックはガルウィングというこれまた超微妙なのがついている。3万も出してよくそんなの買うよな!と思いっきり馬鹿にするとグラフィックを白いペンキで塗りつぶし、真ん中に血のような赤い字でSKATE Rock!! とスラッシャーに載ってたミュージックテープのグラフィックを自分で描いてきた。「すげーカッコいい!今度貸してくれよ。」(それでフリースタイルミートに出場して、写真を撮られ、板のインパクトでちゃっかりムービンオンに載った。) 後日サトウはそのスラッシャーのSkate Rock!のミュージックテープもどこかで買ってきた。 高校の同級生のリイチと三人で初サーフィンをした。というかちゃぷちゃぷとサーフボードを浮き輪がわりにして水着を横目で見ながら浮いてただけだった。第三京浜をカローラレビンの窓を全開にしながら、「海上がりのけだるい感じがいいんだよね」とサトウはつぶやき「意味もなく起ってくるよな」と付け加えた。僕もそれに同意した。唐突にカーステレオのスケートロックのボリュームを上げて頭を激しく振った。 またあるときは、茶色だったバンズskate hiを黒く染めた。あまりにいい感じなので、やり方を教えてもらい、ハンズでダイロンという染料を買ってきて白いラインを残し真っ黒に塗った。黒地に白いVラインが浮き出て、シットカラーとはウンデイの差のいかしっぷりだ。 翌日意気揚々と、でもさりげなく竹下通りのムラサキに履いていくと「それどうしたの。自分で染めたんでしょ?」と ローズに一瞬で見破られる。「そういうのってさー」とローズは続ける。ローズは結構チェックが厳しい。板にレールバーをつけるのはいいけどノーズボーンとテールボーン コーパーは微妙だけど、ラッパーなんかもってのほかだよ。一応全部ローズから買ったんだけどね… 新宿の西口の地下と繋ぐタクシー乗り場のクレーターの中心には噴水の池があり中には内輪山のような円錐形の山があった。水はいつも入ってなかった。表面はタイル張りながら、なんとかボウルのように滑ることが出来た。あるときそこを滑っていると、すぐ近くにある交番の警官が、毎度のように『やめなさい」と言ってきた。するとサトウは突然走りだした。「走るなよ!」と声をかけるとサトウも我に返って足を止める。結局二人ともがっちりと腕を掴まれて捕まり。ポケットの中のものを出せとか言われるはめになった。 警官やガードマンに注意されることなんか日常茶飯事だ。悪いことをしようと思ってスケートをしていないので、何とも思わない。罪悪感も当然ない。何か言われたら、すぐやめて立ち去るだけだ。面倒なやつに食って掛かっても時間の無駄だ。あのとき、なぜサトウは走ったのかは、いまだに謎のままだ。